「夫が部下と不倫…きっぱり別れるというので離婚はしないけど、職場が同じなので心配。仕事以外では一切連絡はしないと誓ってほしい!」
不倫相手が配偶者と同じ職場で働いていた場合、また不倫するのではないかと心配になるのも当然です。
不倫が発覚しても、離婚しない選択をした場合には、不倫相手に「接触禁止」の約束をしてもらうことが、夫婦関係を修復・再構築するために効果的といえます。
そこで、このコラムでは、不倫相手に接触禁止を約束させるときの注意点や、書面に記載すべき具体的な文言などについて弁護士が解説します。
接触禁止の約束で大切なこと
不倫相手に接触禁止の約束をさせる際に大切なポイントは、次の2つです。
- 書面を作成すること
- 約束を破った場合の違約金についても決めておくこと
それぞれ詳しく見ていきましょう。
書面を作成すること
口約束でも約束としては有効です。
しかし、約束の内容を書面で残しておかなければ、あとで 「そんな約束はしていない」と言い逃れされてしまうかもしれません。
そこで、 証拠として残すためにも、必ず書面を作成するようにしましょう。
書面の題名はどうしたらよいですか?
題名を間違えたら、効果がなくなってしまうのでしょうか?
題名はそれほど重要ではなく、題名だけで書面の内容の効果がなくなることはありません。
双方が約束の当事者となって合意する場合、一般的には「合意書」や「示談書」などとすることが多いでしょう。
書面は同じ内容のものを2つ作成して、 1つを不倫相手に渡し、もう1つは自分で保管します。
書面の最後には、日付と、約束の当事者である自分と不倫相手の氏名・住所をそれぞれ記載し、押印しましょう。
あとから「私が約束したものではない 」と言われないように、 書面に記載する不倫相手の氏名・住所は、住民票に記載されている氏名・住所であることが望ましいです。
なるべく不倫相手の住民票や、運転免許証や(国民)健康保険証などを確認させてもらうようにしましょう。
そもそも、不倫相手と何かを約束するという行為に抵抗があります…。
一方的に約束させることはできませんか?
その場合、書面を「誓約書」や「念書」といった題名にして、不倫相手があなたに対して一方的に約束するという形式にする方法があります。
約束を破った場合の違約金についても決めておくこと
違約金の約束ができれば、不倫相手が再び配偶者と会ったり連絡をとったりした場合、不倫相手は基本的に約束した違約金を支払わなければならなくなります。
そのため、不倫の再発を防止する効果も期待できます。
違約金の約束も有効なんですね!
違約金について約束させることは、「損害賠償金額の予定」といって民法第420条1項・3項により有効です。
ただし、あとでご説明するとおり、「約束を破ったら1億円を支払う」といった、あまりに法外な金額である場合、約束が無効となりかねない点にはご注意ください。
なお、不倫相手に対して「接近禁止命令」を発することは基本的にできません。
不倫相手との接触禁止は、あくまで当事者が合意のうえ「約束」するものであり、裁判所などの公的機関が「命令」するものではないからです。
ただし、不倫相手が、ストーカー規制法 (正式名称:ストーカー行為等の規制等に関する法律)で禁止されている違法行為におよんだ場合などは除きます。
接触禁止を約束する書面の具体的な文言
それでは、不倫相手に接触禁止の約束をさせるにあたり、具体的にどのような文言を記載すべきかについて、ご説明します。
(1)今後「接触しない」こと
たとえば、「もう夫と会わない」という約束を書面に記載する際には、「今後は接触しない」という文言を入れる必要があります。
「接触」とは、一般的に、面会、電話、メール、FAX、手紙、SNSなどあらゆる手段で連絡をとることです。
もしも今後、仕事などで接触する可能性がなければ、次のような文言を記載するとよいでしょう。
「●は▲に対し、この合意書(※題名に合わせます)作成後は、合理的理由なく■と面会しないことおよび電話、メール、FAX、手紙、SNSなどいかなる手段でも■と連絡を取らないことを約束する」
※●は不倫相手、▲は不倫された者(あなた)、■は不倫した配偶者(夫)
不倫相手と夫の一切の連絡・接触を断ちたいところですが、なかなかそうもいかない場合もあります。
たとえば、不倫相手が慰謝料として十分な金額を支払った場合、もう一方の不倫当事者に対し、その一部を支払うよう請求できるのが原則です(求償権の行使)。
したがって、不倫相手があなたに慰謝料を支払った場合、不倫相手は求償権を行使するために、夫に連絡・接触するかもしれません(不倫相手が求償権を放棄した場合を除く)。
詳しくは「求償権とは? 」をご覧ください。
また、万が一、道でばったり出会ってしまうかもしれません。
そのような場合にまで、約束を破った責任を負わせるのは、妥当ではないと考えられるため、「合理的理由」のない連絡・接触を禁止するのです。
(2)仕事上は必要最低限の接触のみ認める こと
同じ会社に勤めていれば、仕事での関わりは出てきてしまうでしょう。
そこで、仕事に関わる必要最低限の接触は認めざるを得ません。
そこで、先ほどの例文の「この合意書作成後は、」の直後に「業務上やむを得ない場合を除き」などの文言を加えるとよいでしょう。
なお、不倫相手の意思に反し、「仕事を辞めろ」といった要求をすることはできません。
不倫相手が今後も夫と同じ職場にいるのが心配なので、仕事を辞めてもらいたいです。 辞めさせることはできないのですか?
お気持ちはわかりますが、仕事を辞める・辞めないは会社との雇用契約の問題ですから、強制的に辞めさせることはできません。
【よくある質問】
会社に不倫の事実をばらしたら、居づらくなって辞めませんか?
会社に不倫の事実をばらすと、「名誉毀損」になって、逆に不倫相手から慰謝料を請求されたり、刑事罰を受けたりする可能性があります。
接触禁止を約束させ、破った場合には違約金を支払うという内容で合意し、今後の不用意な接触の防止を図るという方法を選ぶようにしましょう。
詳しくは「不倫相手にしてはいけないこと 」もご覧ください。
(3) 違約金を支払うことを約束させること
接触禁止の約束を破った場合には、 「不倫相手が違約金を支払う」といった旨の約束までしておくと、約束が守られる可能性がさらに高まるでしょう。
具体的には、次のような文言を記載します。
「●が○項(※接触禁止を約束した条項)に違反した場合は、違約金として、▲に対し、1回あたり金○○万円を支払う。」
※●は不倫相手、▲は不倫された者(あなた)
ただし、違約金の額はいくらでもよいわけではありません。
高すぎると、 公序良俗に反するとして、高すぎる部分が無効となる場合があります(民法第90条)。
たとえば、1,000 万円の違約金の合意について争われた裁判で、裁判所は、150万円を超える部分について、公序良俗に反し無効と判断しています(東京地裁判決平成25年12月4日)。
どのくらいの金額 がよいのでしょうか。
相場というわけではありませんが、裁判例などを考慮し、違約金は数十万~100万円程度の範囲で合意するとよいでしょう。
もちろん、それ以上の金額が絶対に認められないわけではありません。
しかし、提案した違約金の額があまりに高額だと、「そんな金額はとても支払え ない」と拒絶される可能性が高くなるため、それだけ合意がまとまりにくくなるおそれがあります。
【まとめ】不倫相手に接触禁止を約束させるなら、違約金についても定めるとよい
不倫相手に、今後は配偶者と接触しないと約束させ、その約束を破った場合には違約金を支払うという合意は有効です。
接触とは、一般的に、面会、電話、メール、FAX、手紙、SNSなどあらゆる手段で連絡をとることです。
職場が同じで業務上の接触が避けられないようであれば、その旨を合意書に記載するとよいでしょう。
ただし、高すぎる違約金は公序良俗に反するため無効と判断されることがあります。
たとえば、1,000 万円の違約金を支払うという約束について、裁判で150万円を超える部分は無効と判断された例もあります。
今回は、接触禁止の約束について注意すべき点を説明しました。
ほかにも不倫トラブルにおける合意書では、慰謝料や口外禁止の約束について記載することも多いです。
不倫相手との合意を成立させ、法的に有効な書面を残すためには、ご自身で対応するより、法律の専門家である 弁護士に依頼するとよいでしょう。
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。