離婚で引っ越すときには、どのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。
離婚での引っ越しは新たな生活のスタートです。
特に、これまで専業主婦(主夫)で配偶者の収入に頼って生活していた方にとっては、これからは経済的な自立をして生活をしていかなければなりません。
離婚の引っ越しにおいては、「夫婦がこれまで使っていた家具や日用品をどのようにして分けるのか」や「これからの生活費のこと」など気を付けなければならないことがいくつかあります。
離婚の引っ越しをする前に注意すべき5つのポイントを知っておきましょう。
この記事では、
- 離婚前後の引っ越しで注意すべき5つのポイント
を弁護士が詳しく解説します。
離婚前後の引っ越し5つのポイント
離婚前後の引っ越しで気を付けてほしいポイントは、次の5つです。
1.離婚前の引っ越し後の生活費は「婚姻費用」として請求できる
2.離婚前の引っ越しは「同居義務違反」になるリスクがある
3.離婚の引っ越し費用は原則、配偶者に請求できない
4.持ち出す家具などは自分だけでは選べない
5.引っ越し後の生活の目途はつけておく
それぞれ説明します。
(1)離婚前の引っ越し後の生活費は「婚姻費用」として請求できる
離婚前に引っ越しをすることもあります。
この場合の生活費は「婚姻費用」として配偶者に請求することができます。
そもそも「婚姻費用」とは、夫婦とその子どもが生活するために費用な生活費のことです。
夫婦には法律上、お互いに生活を助け合う義務があるとされており、生活費として「婚姻費用」を支払ってもらう権利があると考えられています。
離婚前の引っ越し後の生活は、夫婦が別居している状態であるとはいえ、離婚前である以上夫婦ですので、生活費として「婚姻費用」を請求することができるのです。
婚姻費用がどのくらい受けとれるのか目安額を知りたい方は、「婚姻費用かんたん自動計算ツール」をご覧ください。
(2)離婚前の引っ越しは「同居義務違反」になるリスクがある
ここで、注意してほしいことは、離婚前の引っ越しは夫婦の「同居義務違反」になるリスクがあるということです。
そもそも、夫婦には「同居」、「協力」、「扶助」の義務があります(民法第752条)。
そのため、次のような場合には、同居義務違反に当たる可能性があるのです。
【同居義務違反に当たる可能性がある具体例】
・ 配偶者の同意なく別居をした
・ 長期間にわたって別居をした
ただし、たとえば「単身赴任や長期入院等、止むを得ず同居生活を送れない」場合や「配偶者のDVや子どもへの虐待から取り急ぎ避難したい」場合など別居に正当な理由のある場合には、同居義務違反とはなりません。
なお、配偶者が離婚に応じない場合であっても長期間別居状態(例:15年以上の別居期間があれば離婚が認められやすい)が続くことにより、裁判上で離婚の認められる法定離婚事由である「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」(民法第770条1項5号)が認められ、離婚が成立する場合もあります。
(3)引っ越し費用は原則として配偶者に請求できない
引っ越し費用は原則、配偶者には請求することができません。
離婚後の引っ越しと離婚前の引っ越しに場合を分けて説明します。
(3-1) 離婚後の引っ越し費用
残念ながら離婚後に元配偶者に引っ越し費用の支払いを請求できる権利は法律で定められていません。
もっとも、離婚について合意する際に、交渉次第では、慰謝料や財産分与の算定のなかに引越し費用などを考慮して合意することにより元配偶者に引っ越し費用を支払ってもらえる可能性もあります。
(3-2) 離婚前の引っ越し費用
離婚前は、配偶者に対して生活費として「婚姻費用」を請求できるのはこれまで説明したとおりです。
しかし、これはあくまで生活費として「婚姻費用」を請求できるのであって、原則として引っ越し費用は「婚姻費用」に含まれません。
例外的に、たとえば単身赴任など仕事上の都合で双方合意の上で別居し、引っ越す場合などであれば婚姻費用として請求が可能となる場合もあります。
(4)持ち出す家具などは自分だけでは選べない
離婚にあたって引っ越しをする場合には、原則、持ち出す家具などは配偶者に相談なく持ち出すことはできません。
なぜなら、家具なども「離婚の財産分与」の対象となり、配偶者と相談してどのように分配するかを決める必要があるからです。
ここでは、引っ越しと離婚の財産分与について説明します。
なお、一時的な引っ越し(例:単身赴任や冷却期間の引っ越しの場合)には、家具の持ち出しも一時的なものであって、離婚の財産分与とは無関係ですので、夫婦共有の家具として持ち出すことができます。
(4-1)「財産分与」とは
「財産分与」とは、離婚にあたり、夫婦で築いた財産を精算、分配することです(民法第768条1項)。
財産というと、一般的にお金や不動産などをイメージするものですが、お金や不動産以外のものも対象となります。
財産分与の対象となるのは、一般的に次のようなものです。
【具体例】
・ 不動産
・ 預貯金
・ 車
・ 有価証券
・ 保険の解約返戻金
・ 退職金
・ ペット
・ 家具 など
実際にどのくらいの割合で財産を分けるかについては財産を築き上げた貢献度に応じて決まりますが、一般的には夫婦各2分の1が原則です。
これは専業主婦や専業主夫の場合でも同じです。
家事労働によってもう一方の労働を支え夫婦の資産形成に貢献したと考えられているためです。
なお、お互いの合意があれば、夫婦各2分の1ずつに関係無く自由に分けることもできます。
(4-2)結婚中に購入した家具は基本的に「財産分与の対象」に
財産分与の対象となる財産は、「婚姻生活を通して夫婦が協力して築いた財産」です。
つまり、婚姻期間中に夫婦で購入した家具は、基本的に「婚姻生活を通して夫婦が協力して築いた財産(「共有財産」といいます)」であるとされ、財産分与の対象となります。
一方、結婚前から所有していた財産や、実家から相続した財産や贈与された財産等は「婚姻生活を通して夫婦が協力して築いた財産」ではないとされ、財産分与の対象にはなりません。この、財産分与の対象にならない財産を「特有財産」といいます。
(5)引っ越し後の生活の目処を立てておく
離婚後に引っ越しをする場合には、引っ越しをする前に、引っ越し後の生活の目途を立てておくことが必要です。
なぜなら、離婚後の生活では、離婚前とは違い、配偶者に対し生活費(婚姻費用)を請求することができないからです。
離婚後の引っ越しの場合には、次のような目途を立てておく必要があるでしょう。
1.経済的自立の目途
2.住まいの目途
それぞれ説明します。
(5-1)経済的自立の目途
これまで夫婦で協力して生活していたものを、離婚後はそれぞれで生活していかなければなりません。
特に、専業主婦であった人や専業主婦でなくても配偶者の収入に頼って生活をしていたという人は、自分一人で生活できるだけの経済的な自立の目途を立てる必要があります。
配偶者から養育費や慰謝料がもらえるから大丈夫と思われているかもしれません。
しかし、離婚に向けた話合い次第では、あなたが期待しているよりも低い金額になる可能性もあります。
また、養育費がもらえたとしても、途中から支払いが滞ってしまうということも少なくありません。
離婚に踏み切る前に、経済的自立の目途を立てましょう。
ひとり親支援といった公的支援の受給を検討してみてもいいかもしれません。詳しくは公的支援などをご覧ください。
(5-2)住まいの目途
住まいの目途は、早めにきちんと立てておきましょう。
離婚が決まったあとに探そうとすると、転居先がなかなか見つからず困ってしまうことがあります。
また、早めに住まいの目途を立てておくことで、住居費がいくら必要かわかり、離婚後の生活にいくら必要か見通しを立てることもしやすくなります。
なお、子どもがいる場合は、子どもの学校や保育園を決めること、また、子どもが安心して育つことができる環境を整えることも考えなければなりません。
子どもは急に環境が変わってしまうことに不安を覚えるかもしれません。子どものことも考えながら、住まいの目途を立てましょう。
【まとめ】離婚後の引っ越しは、離婚後の生活の目途をつけてから!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 離婚前後の引っ越し5つのポイント
1.離婚前の引っ越し後の生活費は「婚姻費用」として請求できる
2.離婚前の引っ越しは「同居義務違反」になるリスクがある
3.離婚の引っ越し費用は原則、配偶者に請求できない
4.持ち出す家具などは自分だけでは選べない
5.引っ越し後の生活の目途はつけておく
- 特に引っ越し後の生活の目途をつけておくことは重要です。勢いで引っ越ししてしまうと、経済的に困窮してしまうことも多くあります。
離婚の引っ越しについては持ち出す家具や引っ越し時期・引っ越し費用について夫婦で揉めてしまうことも多くあります。
トラブルになってから弁護士へ相談と思われているかもしれませんが、トラブルになる前からも弁護士に相談することができます。
離婚や引っ越しに不安を抱える方、離婚問題を取り扱う弁護士への相談をおすすめします。
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。